どぅるーじば企画の動画配信、ピアニストの入江一雄さんをゲストに迎えての第1回。公開から3日経ち、たくさんの方にご視聴いただき、大変感謝申し上げます。ありがとうございます。
皆さん、はじめまして。どぅるーじばの動画編集を担当した堀と申します。
「お前は誰なんだ」という方のために簡単に説明しますと、
子供のチェロ合宿の時に先生としていらしたのまきおさん。「夕方5時からのバドミントンが必修科目」という何が目的なんだかわからない合宿の最終日に、まきおさんがバドミントンをして足の指を側溝に挟み、大怪我しているところを、私が子供がなんかあった時のために持っていた絆創膏や鎮痛剤で手当てをした(ちなみに後に足の指を骨折してたことが判明。皆さん、サンダルでスポーツやっちゃダメですよ)。そんな関係です。
その合宿の時に「個人でデザインの仕事をやっている」ことを話したのが、すべての悪夢の始まりでした。
合宿後しばらくして、まきおさんからのLINEが。
「コンサートのチラシを作ったんですけど、僕のデザインどうですか?」と、とんでもないレイアウト&色味のチラシが送られてきました。
「どうもこうも、どこから手をつけたらいいかわからない…」デザインに、大人として「ここの文字を大きくした方がいいんじゃないですか?色をそんなに使わない方がいいんじゃないですか?」みたいな指示をしているうちに
「私がやりましょうか?」という話に。
今思うと、それがいつものまきおさんの手口なんだと思います。
その後、まきおさんが出演するコンサートのチラシを何度か手掛けるようになり、やり取りをしているうちに思ったことは、
まきおさんの仕事の依頼の仕方が
「ちょっとそのへんにピクニックでも行こうよ!」って誘われて行ってみたら、高尾山に登らされてた…そんな感じです。(たぶんまきおさんを知っている人は納得してもらえるはず)
今回のどぅるーじば企画も「ともみさんと僕でモスクワ留学時代の友達を招いて音楽番組を作りたい。それをYouTubeで公開する形で、動画にテロップとか入れて編集してもらえませんか?だいたい時間は40分ぐらいかな。」という雑な依頼。
雑な依頼プラス、そんな依頼なんて忘れたころに、どんどん送られてくるたくさんの動画。そして雑な番組進行表が送られてきました。
まきおさんからの指示は
「ヴィルサラーゼ先生のところだけは必ず使ってください」のみ。
私は企画会議に参加したわけでもなく、撮影に同行したわけでもないので、どの動画がどれぐらい使えるか全くわからないし、ヴィルサラーゼがどこにでてくるかもわからない。結局、送られてきた動画を全てチェックするという作業から始めました。
チェックしてみるとまきおさんの足だけしか映ってないカットや、ぶれぶれで使えないカットもたくさんあって、まずそれを仕分けることから始めました。(次からは明らかに使えないカットは送ってこないように )そして全体も企画内容もよく知らないので、順番通りに編集しないと、どこの会話で伏線が張られているのかわからないので、雑な進行表に沿って、順番に編集を始めました。
まず最初のオープニング。
まきおさんとともみさんの演奏がBGMに流れていると思うのですが、出演者の皆さんに動きを入れて、それをまきおさんにチェックしてもらったら
「あと1小節でチェロのフォルテが入るから、そこまで使ってほしい」
…先に言ってほしいよね。と思いながら再度編集。
そして再編集して、確認のファイルを送ると、
「フォルテの後に実はちょっと演奏ミスってて、そこは切って欲しいんだよね」
…だったら何分以上何分未満っていう指示を最初からすればいいんじゃないかな、と思いましたが、大人だからスルー。
こんな無駄なやり取りが各場面で何回も行われてるんです。
そんなオープニングが無事に終わり、まず静岡の柿田川公園のカットから始まります。
二人がセリフをしゃべるのですが、実は何テイクも撮影しています。
最初のテイクはテンション高めだけど、セリフを噛んじゃうテイク。
最後のテイクはセリフは合ってるけど、何度もNGを出してるので雰囲気がよろしくないテイク。
さて、皆さんならどっちを使いますか?
私は噛むギリギリのところまで最初の高いテンションのテイクを使って、うまい具合のところで最後のテイクに差し替えるというハイブリッド編集をしました。そんな地味な作業も随所で行われています。
そして上野公園の場面。今回のゲスト、入江さんが爽やかに登場。
子供がチェロをやっているので、チェリストの名前はたくさん知っているのですが、失礼ながら入江さんの名前は存じ上げておらず、どういう扱いをしていいのかよくわからないまま作業開始。普通に編集しても、ありきたりな番組になってしまうので、テロップでじわじわとどこまで入江さんがオッケーを出してくれるのか、ご本人の反応を伺いながらの作業。
入江さんがチャイコフスキーのクリスマスを弾く場面があり、その所々で上野公園を歩く入江さんのカットが入っています。もらった動画は入江さんが上野公園を歩くカットがたくさんあって、適当につなげてしまうと「ここからこっちに行って、こっちに行ったら、ただ単に上野公園で迷子になっている入江さん」になってしまうので、
「藝大でめんどくさい職員会議があり、気分転換に上野の国立科学博物館へ行き、やれやれ…とまた藝大に戻る」という設定で作っています。
入江さんの経歴が素晴らしすぎるので、下に流れてるテロップの速さが
「さて、今通過した電車に乗ってた乗客は何人でしたか?」クイズみたいになっているのはすいません。入江さんの経歴がすごいのが悪いのです。あれでもかなり文章をカットしました。
そうして編集作業を繰り返してるうちに、チェリストの笹沼さんが出てきたり、ヴィオラ奏者の安達さんが出てきたり、N響のコンサートマスターのMAROさんが出てきたときには
「自分が登ってる山は高尾山なんかじゃない…富士山じゃん…」と。
全ての動画を見終えて、企画の全容がやっとわかったのが、まきおさんから提示された締め切り2日前。しかもそのときに編集を終えていたのは富士山でいう6合目ぐらい。8合目からがキツいのに、その全然手前…。
「もう…これは間に合わないかもしれません…」とまきおさんにメールを送り、それでもなんとか締切は守りたいので、土日返上で作業。
実は私は小さな子供が3人いるので、基本的に土日に仕事をしない(というか騒がしいのでできない)んだけど、いつもは育児に協力的な旦那さんも、タイミング悪く仕事が忙しいのが続いて、リビングのソファーで寝ている…。
作業机のすぐ横で上二人がチェロを弾いていて、ヘッドホンをしていても映像の音が聞こえづらい&一番下の子がベビーガードの向こうからおもちゃを投げつけてくる…というお世辞にも編集に向いている環境とは言えない、そんな様子を写真でまきおさんに送ったら「左肘が下がってる」と急にチェロの先生モードの返事。
私がかけてほしいのはそんな言葉じゃないけど、とりあえずありがたく指導をいただいたので、子供の後ろから左肘をちょいちょいっと持ち上げるという作業も追加され、もう死にものぐるい、必死。
何度も心が折れそうになりながらも途中から「これ、すごい良い番組になるんじゃないの?」をモチベーションに頑張りました。
ちなみに私は音楽未経験者&子供がやっているチェロの曲以外知らないので、曲が送られてきても何の曲か知らないし、楽章の切れ目がどこかわからず。でも楽章の切れ目にキャプションを入れないといけないので、Youtubeで楽章の切れ目の確認をするという作業も発生。
まきおさんに「ドビュッシーのチェロソナタ、何であんな変な楽章の切れ目なんですか?」と文句を言ったら「そんなのドビュッシーに言ってください。あれ、譜めくりがめちゃくちゃ大変なんです」と。違う。返してほしいのはそんな言葉じゃなくて、楽章の切れ目の正しい分数。あとそろそろ少しだけでいいから、ねぎらいの言葉。
常にバタバタでしたが、細かいチェックの時間も考えて、余裕をもって締め切り一日前に編集が終了。本当によく頑張ったと自分でも思います。
そんな状況で編集を終えましたが、実はお蔵入りになったシーンがかなりあります。
上野公園で3人がキメ顔でバッチリ決めた後におじさんがカメラの前を通り過ぎる、
渋谷スクランブルスクエアの展望台のBGMがうるさすぎて入江さんのムーディーな言葉が全然聞こえてこない、
入江さんが今の学生に向けて素晴らしい言葉を言っているのに、体育の授業のバスケット並みに「キュッキュッキュッキュ」と歩くお客さんの足音がかぶる(その日の夜は雨だったのでね…)、
入江さんがラフマニノフのピアノソナタについて熱く語っているのに、後ろでサプライズ誕生日パーティーが始まって声がまったく聞こえない、
最後の締めの台詞を言っている最中に、店員さんが「ラストオーダーはいかがなさいますか?」と聞いてくる、
というハプニングの連続。サプライズ演出なんてしなくても、アクシデントを呼び寄せる…そんな何かを持っている人たちです。
そんな中、まきおさんが噛んだり、ちょっと進行がもたもたして空気がどんよりしていても、常に気遣いを忘れない入江さん。使えなかった部分も含め、送られてきた映像すべての時間、入江さんはずっとジェントルマンでした。そんな入江さんの懐の深さにかこつけてヒゲとシルクハット、最後にはステッキまでつけてしまって、ほんとすいませんでした。
そして恐れ多くも日本音楽コンクール・ピアノ部門第1位というピアニストに、あんなガチガチのYoutube用サムネイルをつくったのも自分が初めてのことなんじゃないか…とドキドキしましたが、快く(かどうかはわからない)了承してくださり、大変感謝しております。
雑な指示だったため、素人の私が聞いていて「へぇ~」「面白い」と感じたところを切り貼りしたので、入江さんをご存じの方はもっと入江さんを好きに、入江さんをはじめて知った方は入江さんの魅力が存分に伝わるように仕上げたつもりです。
何より動画編集者の私と、確認のために近くで映像を何度も見ていた旦那さんと夫婦揃って「入江さん、かっこよすぎる…」と完全に魅了され、わが家の家訓は「レディーファースト」に変わりました。
美竹清花(みたけさやか)サロンの見澤さんの入江さんに対する尊敬もすごく伝わってきて、たくさん使わせていただきました。ありがとうございます。
笹沼さん、安達さん、MAROさんも素晴らしい文章をありがとうございます。
コメンテーターの大熊くん、奈良さん、館石さんも要所要所で効いていて、映像がパリッとしました。ありがとうございます。
「もうだめだ…絶対に締め切りに間に合わない…」と思った時に、ともみさんから沼津の超絶美味しい干物が届いて、元気百倍になりました。そのお心遣いに感謝です。
そして、すべての活動は助成をくださった「ふじのくに#エールアートプロジェクト」様のおかげです。本当にありがとうございます。
会社員時代に「上司に雑な仕事の依頼をされて、実はそれが大きな案件だった。しかも締切は明日」みたいなことは多々経験していて、不思議とそういう人と縁があるので、今後もまきおさんとは腐れ縁なのかな…と、もはや諦めています。
公開を終えて、再生数も順調に伸びてホクホクしていたら、まきおさんから「ブログ1回目を書いてください」と言われたので、今回書くことになりました。そう…悪夢はまだ終わってなかった…。
そんな中、ありがたいことに手紙で出演してくださったN響の第一コンサートマスター、MAROさんも全編見てくださったらしく
「とても面白かったと、編集の方がすごいと絶賛だった!」との報告が。
幸せすぎる。すべてが報われました。
次回の編集もどんな動画が送られてくるのか楽しみにしています。ただ、次からは楽章の切れ目の時間の指示と、もっと早めに動画ファイルを送ってください。
そんな編集の裏側を知ったところで、もう一回見てみると、いや!何度見ても面白い入江さんの魅力が詰まった番組を、ぜひ今後ともよろしくお願い申し上げます。
堀